石濱匡雄「インド音楽とカレーで過ごす日々」2
カレー好きの方には、当たり前のことなのでしょうが、インドのカレーと言っても地方毎に味の特徴が違う。コルカタはアッサム茶やダージリン茶の本場だから、チャイを飲みながら人と語らう場面がたくさん登場する。本書にはシタールと同じくらい飲食の話が出てくる。
石濱さんはシタールを学ぶためにコルカタに留学していたはずだが、寝ても覚めても音楽一辺倒でないところが、生き方としてとても素敵だ。もちろん楽器練習に膨大な時間は必要なのだけど、興味関心が幅広い方向に散らばっているのだ。
留学当時の体験として、インドとパキスタンが一触即発の有事になった時のことを語っている。核保有国どうしなので日本政府は避難退去を促し、石濱さんも一時帰国した。しかし師匠をはじめインドの人々にはそこまでの危機感がないようなのだ。つまり外国人に流される情報と国内に流される情報の間に乖離がある。それは別の地域であっても当てはまる話なのだろう。知らない怖さ、知らされない恐ろしさを感じました。
師匠の言葉として印象的な部分があります。「舞台でやるものをピュアな音楽と思うな。一人で音楽に向き合う時間がピュアなんや、音楽に向かう時は人が想像し得る感情なんかを超越した高みを目指せ・・」いかにも古典音楽シタールのお師匠さんってお言葉ですが、シタールに限らず通じる範囲は広い言葉だと思います。
しかしながら、石濱さんは普通でいいと語ります。インドで演奏してインドの方から拍手をいただくレベルが普通だと。なるほど。
ならば日本の伝承音楽もそんなものなのかな?
口述筆記ということもあり、一つひとつのエピソードに、いかにも大阪人らしいオチがついている。読んだからシタールやカレーに詳しくなるわけではないけれど、楽しみながら読める本でした。