メンデルスゾーン op54 厳格なる変奏曲
たびたび述べてきたように、メンデルスゾーンには「流麗な旋律」というイメージがつきまとっている。少なくとも私はそのような先入観をもって作品を聴いていた。
その私の狭い聴き方を根こそぎ崩したのが、上記のピアノ曲「厳格なる変奏曲」である。まず主題からして「これが、メンデルスゾーン?」と問い直したくなるくらいに渋い。それから表題のように変奏が展開するのだが、これが実に引き出しの中にしまい込んでいた書法をすべて使いきってしまったと思われるほどに、多様な技巧を駆使している。技巧と言ってもリストのように、華々しく聴衆を驚嘆させるようなパフォーマンスを演じるのではない。あくまでも音楽の芯をはずさずに、ひたすら主題を生かすための変奏に徹しているのである。おそらくは推測するに、その真面目さをもって「厳格なる」と名付けられたのだろう。
この曲に目を開かせて下さったのは、もう十数年も昔のことになるが、菊地健二という若い優れたピアニストだった。音楽に対して真正面から向かい合おうとする姿勢が「厳格なる変奏曲」の演奏を通して、聴き手にしっかり伝わる名演で、心の底から拍手を送ったものだった。
よく知られている無言歌などのピアノ曲とは、別の一面を見せてくれる佳曲です。