メンデルスゾーン op41 三つの民謡
メンデルスゾーンと言えば、誰しも思い浮かべるのは「流麗な旋律と美しい響き」であろう。それは最も人口に膾炙した「バイオリン協奏曲」の例を持ち出すまでもなく、納得いただける特徴と言えるだろう。そう、彼は今も聴衆の耳に、こよなく優しく理解しやすい音楽を提供してくれているのだ。
では、立場を180度変えて、表現者としてメンデルスゾーンを体験するとしたら、何から始めたらよいだろう?音楽歴の長短に関わらずどなたにもお薦めできるのが合唱曲「三つの民謡」である。合唱曲と言えば、まず一度は演奏してみたいのがオラトリオ「エリヤ」だ。演奏時間が3時間に及ぶ大曲だが、我が国でもしばしば演奏されているので、機会があれば是非トライしてみたい曲だ。反対に意識しているいないに関わらず、誰もが口ずさんでいる曲がある。クリスマスが近づくと街角に賛美歌のメロディが流れるようになるが、賛美歌の中でも名曲として知られている「あめにはさかえ」はメンデルスゾーンが作曲した「吹奏楽と男声合唱のための祝典歌 第二曲」のふしを元にしている。
さて「三つの民謡」とは、ハイネの詩による混声合唱曲で、吉田秀和氏による訳詩が施されている。三曲を通しても5分に満たない長さなのだが、いずれの曲も親しみやすい旋律とハモりやすい平易な音で書かれており、まさにメンデルスゾーンの入門、いや混声合唱の入門曲にふさわしい。
三曲の構成も、レガートに流れる一曲目「手に手をとりあい」、三曲目「その墓のうえで」に対比するように、二曲目「霜がおりて」がスタッカートで詩に描かれた寂しい情景を浮きだたせるように歌われる。短い三曲の中にもしっかり起伏が配慮されている。
一頃はシューマンの「流浪の民」やメンデルスゾーンの「おお雲雀」などは、「ハレルヤコーラス」と同じくらいの頻度で演奏されていたように思うのだが、最近はロマン派の作曲家による合唱曲(とりわけ小品)の演奏回数が減ってきているように感じる。松下耕先生や木下牧子先生の楽曲は知っていても、シューマンやメンデルスゾーンを歌ったことがないという合唱への関わり方はいかがなものだろう?ロマン派の旬は過ぎたと言えばそれまでなのかもしれないが、中等教育の段階からでもルネサンス〜バロック・古典派〜ロマン派の流れを歌を通して理解しつつ、その上で現在進行形の優れた作曲家の曲にふれるというプロセスが、システム化できないものか?と考えてしまう。
三つの民謡は、「カワイ・リーダーシャッツ 混声合唱第2巻」やドイツ語の原詩は出ていないが野ばら社による「混声合唱曲集」に収められている。とりわけ後者の曲集は、三つの民謡以外にもメンデルスゾーンやシューマンの手による合唱曲がいくつも収録されており、楽しめること請け合いである。