オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび35

名作を読む12

エッセンバツハ作「兄と妹」を読む

憧れの職業の中に、医者と弁護士は確実にランクインするだろう。しかしながら裏を返してみれば、それだけ世の中が健康不安に怯え、訴訟でかたをつける社会に変化しているのだとも思う。弱い人間だからこそ、自他への信頼や安心を失ってはいけないはずなのだが、逆方向に進んでいる気もする。しがない教員であった私にも責任の一端があるが、健康増進維持や守るべき社会的ルールに対する教育が貧困だったのだ。

罪人の子ども、兄と妹二人が本編の主人公である。現在もそうだが、親が勾留あるいは服役している場合、子どもたちを取り巻く環境は公的な援助や人々の善意によって支えられているとは言え、親がいないという大きな穴をすべて埋められるわけではない。

兄パーペルは、泥棒になると思い込んでいたし、実際盗みも働いていた子どもだったが、やがてハープレヒト先生の導きによって、人への信頼を取り戻していく。また修道女である妹の言葉で、人を許す心のあり方を知る。

この物語には、パーペルを蔑み馬鹿にする人々が大勢登場するし、先生はウィーンへ去り、妹は死んでしまい、改心したパーペルの行く手を遮るかのようだ。最後は服役を終えた母との再会でハッピーエンドとなるが、世の中そう上手くはいかないと諭しているようなストーリーに作者の憐みや同情に流されないリアリズムを感じる。