国連難民高等弁務官に就任した瞬間から、緒方貞子さんは、同時多発的に世界各地で発生した難民支援に取り組むことになる。
クルド難民、ボスニア内戦、コソヴォ問題、チェチェン、ルワンダ・・。とりわけチェチェンについては、冷戦という大きな枠組みが外れた瞬間、内部の矛盾が一気に噴出してしまったようにも感じられます。力で抵抗できないように押さえつけていたソ連という国家の圧力から解き放された時に何が起きたか?
そして、どの紛争や難民問題にも共通しているのは、国境=民族の棲み分けではないということ。多民族が同じ地域で文化の違いを越えて共生を図るしかないのでしょう。
最終章に至り、中国との協働や日本に必要な多様性について語っている。出版後6年、緒方貞子さんが亡くなられてからまもなく2年になるが、世界情勢は日々変化している。現場に出向き、人々に会い、そして今何をどうすればいいか? 共に考えていた緒方さんの姿勢を私たちは忘れてはならないと思う。