オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび62

名作を読む33

バルザック作「あら皮」

持っていれば、何でも自分の思い通りのことが実現するが、その分自分の命が縮んでしまう「あら皮」。主人公ラファエルは、自分の湧き出てくる欲望と戦い葛藤しながら、結局は自分の命を縮めてしまう。そしてその度にあら皮もリアルに縮んでいく。物語の最後の方で「いかに大きな力を持っていようとその力を巧みに使いこなす知恵がなければ、結局その力を持て余し、身を滅ぼすだけのことだ」と悟る。これはそのまま、バルザックから現在の人類に突きつけられているような言葉に思える。

作者バルザックの作品は「人間喜劇」としてまとめられ、さらに三つの部門にジャンル分けされている。この作品は、その中のうち哲学的研究ジャンルの第一作にあたる。あら皮の不思議な魔力に翻弄されるところなど、東洋の説話的な雰囲気もある。

ところが、彼の実生活は、社交界で美食に明け暮れているか?小説を執筆しているかの、いずれかであったようで、静かに思索を深めながら森を散策するといった様子は、まるでない。実際、若い頃から破産を経験し、夜のパリを彷徨っていた経験が、本作品でもラファエルの無頼な生活に反映されている気がする。死後も膨大な借金は自身によっては精算できなかったというから、ある意味すごいというか、怖いものなしだ。

ここまで振幅が大きい生き方は、凡人にはとても無理だが、今流に言えば、資質能力に偏りが見られるとも言える。フランス文学史上に屹立している天才にそんなことを感じてしまいました。