藤木幸夫「みなとのせがれ」を読む1
話はファミリーヒストリー的に父である藤木孝太郎、さらには祖父や祖母の出自から始まる。横浜で活躍した人の多くが何かを求めてこの地にやって来たように、藤木さんのルーツも淡路島であり、福井県でありました。
港湾労働者、つまり沖仲仕がいての港なのですが、荒くれ者というか、あまりイメージがよくないわけです。男声合唱曲にシーシャンティという海の男の歌があるのだけど、What shall we do with the drunkn sailor? という国を跨いで海の男への偏見を煽るような歌もある。しかも飲む打つ買うに付け加えて反社会的な組織との関わりが噂される。それらをどう払拭し、真っ当な堅気の道を歩ませようと腐心したか、酒井信太郎という大物と藤木さんの父親との兄弟にも似た関係が語られる。そこまでが前編で全体の5分の2。
さて、ようやく主役登場。憲兵隊の本部が馬券売り場になった話や武相高校の火事を消しとめた話など出てくるが、凄いのは旋盤の作業で青酸カリを口に含む工程があったと言う。もちろん飲み込んだら即死である。未来ある若者にこんなことをさせていたのか! と思った。
戦後、神奈川県立工業高校と早稲田大学を経て、著者は父親同様港の仕事に就く。とにかく人手不足の時代であったが、北海道に働き手を探している時に、港湾労働者は皆入れ墨をしているのでは? とか予想外の偏見に驚く。どうやらヤクザ映画の舞台が横浜港で撮影セットまで提供していたことと関係があるらしい。一度染み付いたイメージを拭い去るのは大変だったと思います。