堀内隆行「ネルソン・マンデラ」を読む2
本書には、もう一人の主人公がいる。マンデラの妻ウィニーその人であります。結婚した相手がネルソン・マンデラであったことは、彼女の人生を大きく変えてしまいます。そもそも結婚後、マンデラは地下活動に入り公の場に現れず、しかもその後は終身刑で刑務所へ。何という運命でしょう!
しかし、彼女はまるでエネルギー逆噴射の如く、反アパルトヘイトの運動に参加していくのです。元々は政治に対して、関心がなかった彼女は、やがてドムパス(=指紋を押した身分証明書)の抗議行動で初めて逮捕され、その二十年後「黒人親の会」を組織する。彼女は黒人居住区へ流刑となるが、そこに託児所や診療所を開設する。ロベン島の刑務所で看守を看過させていった夫の行動とどこか似ている気がする。
彼女は先鋭化を強め.若者を扇動する。「マッチ箱とネックレスでこの国を解放しよう」という煽りは、タイヤのネックレスを白人の首にかけて、それに火をつけようというかなりおぞましいもので、現実的な和解へと歩み始めた夫との間にできた溝は必然だったのかもしれない。
夫に話を戻そう。本書は、その後大統領としてのマンデラの業績を冷徹な眼で語る。単なるヒーロー賛美本に陥らないのは、歴史学者としての責務だろうか。
平等は世界中の格差に喘ぐ人々の願いだが、ネルソン・マンデラの場合、彼の思想遍歴を追うと、ソ連崩壊・共産党の危機と共に資本の国有化や=社会主義国化による白人黒人の格差解消は極めて困難だったのかもしれない。