オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび550

諏訪正樹「身体が生み出すクリエイティブ」を読む2

 


「身体で触れるように世界に接する」ことで、手持ちの知識やスキーマと呼ぶ行為パターンから抜けることが可能だと著者はいう。体感を言葉に置き換えておくことの意義を語る。体験が経験になる、現象学的には「現出が現出者に変わる」過程で元々皮膚なり私たちの五感が感じていたはずのものに、繊細かつ研ぎ澄まされた言葉で近づけるのではないか? と説くのだ。

著者の仮説を裏付ける研究者として神経生物学者のダマシオが紹介される。彼によれば「我々の推論や意思決定を陰で支えているのは、感情や情動を司る中枢機構」なのだ。そしてそれは進化的に古い脳の部位である。その前後で著者はAIの現状と課題について語っているのだが、体感に依拠した判断ができないコンピューターに人間同様のコミュニケーションは困難であろうと言う。シンギュラリティの日が近づいていることに「オヤジのあくび」でも何回か触れてきたけれど、元来クリエイティブな人間の日々の行為にもっと自信を持っていいのかもしれない。

本書の特徴は、登場する実例に著者自身の生活が投影されていることだ。日本酒の味にこだわったり、ペペロンチーノのニンニクを炒める様子や野球をしている時の自己観察などなど。読者は等身大の著者を通して、体感と向き合うとは、どういうことかを知る。そしてそれらは今すぐに読者自身ができることでもあるのだ。

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