オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オペラ コレクション「カルメン」を買ってみる 2

 クライバーの指揮

 二十世紀後半に生を受けたクラシックファンにとって忘れることのできない名前、不世出の天才指揮者カルロス・クライバー。他の誰とも比較することが困難である存在を人は「天才」と呼ぶ。彼は、言うまでもなく「演奏の天才」だったが、同時に「奇行の天才」として数多くのエピソードを残していった。演奏の直前キャンセルなどは奇行の最たる例となっているが、作曲家が己の音楽を記録するのに幾度も書き直しが許されているのに対し、演奏家(レコード録音を除く)は、一度きりしかチャンスを与えられていない。一度発した音響は二度と修正ができないわけで、彼の意に添わない演奏が成立することに彼自身が堪えきれなかったのだと私は思う。

 魔弾の射手、椿姫、こうもり、トリスタンとイゾルデばらの騎士・・ クライバーの残したすべての記録の中でには、オペラの占める割合は大きく、それらのすべてが名演と評価されている。そもそも録音・録画といった記録で演奏の足跡を辿ることがクライバーの場合、他の大指揮者に比べて極めて容易である。簡単に言えば、演奏会の回数に比例して、録音・録画の回数も極めて少ないのである。

 さて、その中で出てきたのが、今回のオペラコレクション「カルメン」だ。クライバーらしさは幕が開く前の前奏曲からすでに十分に発揮されている。あまりにも有名な闘牛士の行進曲の後、主人公の暗い運命を暗示するように、ドンドンとティンパニがアクセントを叩き込むのだが、その重さ・強さへの指示が実にダイナミックだ。

 二幕でエスカミーリョが登場する「闘牛士の歌」の表現も、クライバーでなければ、このクレッシェンドはできない!と思わせるようなギリギリっと聴き手の心にねじ込んでくるアッチェランド+クレッシェンドが聴こえてくる。

 カルメンの名演は、多い。だが、新シリーズ「オペラコレクション」の第一巻を飾るカルメンの指揮者がカルロス・クライバーであることは、以上のような彼の指揮でなければ、聴くことができない演奏を耳にすると妙に納得してしまうのだ。