オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

ミューズの神が宿る時2  スクランブルド・エッグ(前)

 夢の中で、この上もなく甘美な世界が広がっていようとも、目覚めと同時にそのいつまでも浸っていたい時間は、無情にも消え去ってしまう。そして、ほとんどの場合、記憶にさえ残らない。
 ポールだって、そんなことは百も承知だった。でも、その日の夢で聞こえてきた音楽は、忘れないうちに何が何でも書き留めておかなければいけない気がしたのだ。時間という記憶の敵が、音楽を自分から奪い去らないうちに、ポールは飛び起きて、スタジオに行き、楽器でコードを探し始めた。
「美しい旋律だ」率直にポールは、そう思った。きっと誰かの作った名曲を、覚えていて、それが夢で再現されたに違いないと感じたのだ。
 朝食前にできた曲というわけで、スクランブルド・エッグという名前にして、一応歌詞をつけておいた。