麻生芳伸編「落語百選」を読む2
江戸の頃は髪を結っていたから髪結床があったわけで、そこでの人間模様。愉快な人がたくさん登場して噺を盛り上げる。眠っていた半公が起き抜けに語り出す「歌舞伎見物で、女性と良い仲になる話」は、うすうすこれは夢の話だろうなぁと感じても面白い。モテない男の願望が投影されているからでして、モテ期がなかった・・私にはよくわかる。
こういう身近な社交場は、洋の東西を問わず娯楽の場となっていたようで、アメリカでは床屋から男声カルテットのスタイルが生まれて、その名もバーバーショップという。
江戸っ子のイメージというのは、いろいろあるけれど、とにかく喧嘩っぱやくて、宵越しの金は持たねえとか言って金に執着しない。そんなイメージそのものが「三方一両損」。せっかく落とした三両を届けたのに、一度身から離れた銭とか言って受け取ろうとしない。気が短くて喧嘩になってしまう。挙げ句の果てが奉行所のお白洲の上、裁くのは大岡越前だ。
その日に稼いだ金は、その日のうちに飲み食いし、遊んで使ってしまう。経済的には金が市中に回るので決して悪くないだろう。引き換えて、子どもの教育だの、住宅だの、老後のために、貯蓄に励む今の日本人は何と江戸っ子から遠いところへやって来てしまったことか! 突き詰めると何のためにあくせく働いているのか? もう一度考え直すきっかけになりそうな噺です。