麻生芳伸編「落語百選」を読む3
さくらんぼの種を食べたら、頭のてっぺんから木が生えてきた。木を引っこ抜いたら水が溜まって魚が泳ぎ出す。最後はその池に身投げすると言う何ともはやシュールな噺。
「どこかにこういう人っていそうだよね」という設定から遠く離れた荒唐無稽さであります。けれど「一体この噺のどこか面白いのか?説明してください。」と言われると私は困る。落語としてのドラマはない。むしろイラスト的な直観的な面白さなのだ。妖怪変化の絵や版画が残っているのと同じで、リアルには見えないし、あり得ない世界が描かれている。
巻末に鶴見俊輔の解説が付いていて、文庫本になった1999年に書かれたと思われる。例によって外国から来日した研究者の紹介をしながら、筆者の中には、江戸文化の時間が流れていると指摘する。江戸落語の世界を覗いてみることで、令和の高速急回転が連続する時間から離れることができるのかもしれない。