名作を読む91
モリエール短編集を読む
タルチュフ
振り込め詐欺、オレオレ詐欺、給付金詐欺、詐欺のニュースを耳にしない日はないくらい世の中は詐欺事件で溢れ返っているし、実際撲滅できない。
タルチュフは、司祭に扮した詐欺師で、人の信仰心を弄び、財産を奪い家族関係をめちゃくちゃにしようとする。あわや一文なしの刑務所行きというところまで追い詰められたところで、国王の配慮で助かるという話。これだけ司祭がコケにされれば、教会関係者が怒るのも無理はなく、実際モリエールは酷い目にあっているらしい。
町人貴族
残念ながらというべきか、幸いなことにというべきか、私は貴族でないし身の回りにもそのような方はいらっしゃらない。だから金持ちの商人であるジュールダンが、貴族の仲間入りをしたくて仕方がない様子が、ただ滑稽にしか見えないのだ。もちろん作者もその様子をからかい半分に書いているのだけど。
己の見栄のために金を浪費して、挙げ句の果てに借金に首が回らなくなってしまう貴族は、江戸時代の一部の武士を思わせる。
所詮虚栄に過ぎないか、それとも真実を秘めているかは、音楽にも見受けられて、ルイ14世の頃の宮廷音楽は、うわべは美しいが深みを感じられないのに対して、ほぼ同時代のヨハン・セバスチャン・バッハの音楽の一音一音が何と心の奥底に響くことだろう。
どのような時代・文化の中に生を受けたかは、当人の表現に現れるのだなと至極当たり前のことを改めて感じました。