オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび451

小林秀雄 考えるヒントより「平家物語」を読む。

 


「琵琶を弾いています」と言うと、小泉八雲耳なし芳一平家物語を連想される方が多い。平曲を奏でる盲目琵琶法師の伝統が途絶えてしまった現代でも、琵琶曲の中に平家物語に題材を求めた曲は多い。

小林秀雄は瀬戸内海に浮かぶ大三島大山祇神社の甲冑を見て、一騎討ちに必要な機能を備え、それが故の鎧の複雑な構造に感嘆する。そして平家物語も複雑な物語であると言う。元来が琵琶法師、検校から座頭に至るまで、口承で語り奏でてこられた物語を今は先ず文字で接するのだから、その落差は大きい。けれど文字にならなかったことにより、心理描写の迷路へと向かわず、朗々とした我が国の口承文学の流れを受け継いでいるのだろう。そもそも古事記を起点とすれば、稗田阿礼が語ったことを書き写したのが日本文学の出発点なのだから。

抒情に傾きすぎず、人物の動きを以て、場面を伝えることで、ドロドロの悲歌にまっしぐらに陥っていくことからは逃れているのだ。ただし吟変わりと呼び、転調して一人称で感情を表現する部分が挿入されることがある。そこに後世の歌謡につながる気配を私は感じている。

源氏物語の登場人物に寄り添うことよりも、平家物語の語り口に惹かれる小林秀雄の嗅覚や好き嫌いが、日本の文壇や文学青年に与えた影響は決して小さくないだろう。けれど敢えて言うなら、これはやはり小林秀雄の趣味なのだ。