オヤジのあくび

タケさんの気楽に行こうよ道草人生の続編です。

オヤジのあくび595

名作を読む96  ケストナー飛ぶ教室

 


描写や話の展開が楽しいわけは、作者自身が登場人物といっしょになって、自ら創る物語世界を面白がっているからだという気がする。前書きとあとがきに作者が登場する仕掛けも物語の一部に入りたい願望のような気がします。

自分が何者であるか? という説明が未だ十分にできない、不規則で枠をはみ出してしまう衝動が抑えられない、大きな不安と葛藤の渦中にいる、そんな時代が自分にもあったことを懐かしみながら読みました。

タイトルは寄宿学校の仲間がクリスマスに演じる劇の題名。個性的な5人の仲間が引き起こす事件を中心に、彼らを見守る舎監先生、彼らが大好きな禁煙先生の人柄にふれながら物語は進みます。

学校は今のままでよいのか? 生成AIの登場で教育はどう変わるのか? 若者に敬遠されている先生の働き方は? 学校に対する既成の価値観が大きく揺らいでいるのは、今までのツケが回った感があるけれど、この物語に出てくるような高校は少し前まで確かにあったと思うし、そこで送る生活が青年たちにとってかけがえのないものであったことに異論は挟めないだろう。

工科学校との抗争、臆病なウリーの飛び降り事件、クリスマスに親に会えない悲しみをじっとこらえるマルチン・・そして代役を立てた劇「飛ぶ教室」の成功! それらをボクのように50年前の高校時代を懐かしみながら読む読者もいるだろう。そして、なぜか、あの頃の振幅の大きい感情のうねりが蘇ってきた。

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