ポールサイモンの話 3
さてポールの深い詩。これもS&Gの際だった特徴の一つである。例えば「サウンド オブ サイレンス」。ヒット曲と言えば、ラブソングがお決まりの業界で、この詩は、何と異質な内容を歌っていることか!(だからこそ「水曜の朝 午前3時」というアルバムが、当初まるで売れなかったのも肯ける話なのだが)
恥ずかしながら、下に「ほいほい流」の対訳を試みてみた。苦笑しながらでもお読みいただければ、幸いである。
Hello, darkness, my old friend
I've come to talk with you again
Because a vision softly creeping
Left its seeds while I was sleeping
And the vision that was planted in my brain
Still remains
Within the sound of silence
よっ! 漆黒の闇よ。おれにとって昔からの友である心の暗闇よ。
おれは、またおまえと話に来ちまった。
眠っている間に、ひとかけらの妄想がやってきて
おれの頭に 一粒の種を植え付けて行っちまったから
そしてそれはまだここに そのまま残っているのさ。
そう、この静寂「サイレンス」の中こそにね
In restless dreams I walked alone
Narrow streets of cobble stone
'Neath the hallow of a street lamp
I turned my collar to the cold and damp
When my eyes were stabbed by the flash of a neon light
That split the night
And touch the sound of silence
安らぎを感じないいくつもの夢を見ながら
おれは玉石を敷き詰めた狭い路地を一人っきりで歩いていたのさ
街灯の点る下で
寒さと湿気に コートの襟を立てた そのとき
漆黒の夜にネオンが光り輝き
おれの視線は引き裂かれた
そのとき おれは「サイレンス」の感触に気づいたんだ。
And in the naked light I saw
Ten thousand people, maybe more
People talking without speaking
People hearing without listening
People writing songs that voices never share
And no one dared
Disturb the sound of silence
あからさまな光の中で 見ちまったんだ
何万・・・いや、もっと大勢の人々を
語りかける中身もないくせに話している人びとを
理解などしようとしないくせに聞いている人びとを
決して誰にも歌われない歌を 書き続けている人々を
そうして誰ひとり
「サイレンス」をかき乱すことはできなかったのさ
Fools, said I, you do not know
Silence like a cancer grows
Hear my words that I might teach you
Take my arms that I might reach you
But my words like silent raindrops fell
And echoed in the wells
Of silence
「馬鹿だぁ」思わず言っちまった。あなた、わかってないんだよ。
「サイレンス」の闇はガンのように拡がっていくんだよ
あなた方に語りかけるおれの言葉を聞きなよ
あなた方に差しさしだしているおれの手につかまりなよ
でもおれの言葉は 音のない雨粒のように落ちていく
そして「サイレンス」の井戸の中に
こだまするだけなのさ
And the people bowed and prayed
To the neon god they made
And the sign flashed out its warning
In the words that it was forming
And the sign said
"The words of the prophets
Are written on the subway walls
And tenement halls”
And whispered in the sounds of silence
みんな 頭を垂れ 祈りを捧げてる
自分たちがこしらえたネオンの神様に向かってさ
神様はまたたきながら警告してるのさ
それは巧みに構成された言葉となって
こう語る
「預言者の言葉は 地下鉄の壁や
アパートの廊下に書かれてる」 って
「サイレンス」は そうささやいてるよ
下手くそな訳にお付き合いただき、甚だ恐縮。少し言い訳を許してもらえるなら、曲タイトルである「サウンド オブ サイレンス」。何回も繰り返される得体の知れないこの言葉を訳すのが、そもそも難しい。「沈黙」?「静寂」?実体のない形而上学的な概念を持ちだそうとしてみても、事はやっかいになる一方でして、結局原語の「サイレンス」としてみたのだが、これはギブアップを宣言したようなもので、いささか格好がつかない。
ポールが語ろうとしているのは、やはり時代の閉塞感・人々の無力感に対しての警鐘だと思う。ポールは「ネオンの神様」を持ち出しているが、神様もどきは、さらに増殖している。そうブログ読者が今この場で使っているインターネットだって、ネオンの神様の継承者の一人だ。(おそらくは、現在世界最強の神様かもしれない)作曲から50年近くが経過した今、閉塞感・無力感は果てしない広がりを見せている。もはや救いの手をさしのべる者はいないし、そもそも自分が何に対して「沈黙」を強いられているのか?に気づいていない人々が、大多数を占めているのだ。
人々が立ち止まり、「?」や「!」と気づく言葉。それを「楽しければ、それでいい」「売れさえすればそれでいい」が先行しがちなポップスシーンに持ち込んできたのが、このポール・サイモンであり、かのボブ・ディランであるのだ。